所得拡大促進税制の税制改正について|仙台市の税理士・ひなた会計事務所
2021年3月19日
(1)所得拡大促進税制のあらまし
所得拡大促進税制とは、従業員の賃上げを目的とした税制です。
一定の要件を満たし、前期よりも多く従業員へ給料を支給した法人は、増加させた支給額の一部を法人税から控除することができます。
この控除要件が令和3年4月より変更となります。
では、税制改正によりどのように変更したのでしょうか。
(2)税制改正による適用要件の変更点と注意点
従来の控除要件は、前期から継続して雇用している従業員への当期の給与支給額が、前期より1.5%以上増加している場合に適用されます。
令和3年4月からは、継続して雇用している条件が無くなり、全従業員への当期の給与支給額が、前期より1.5%以上増加していれば適用されます。
そのため、給与支給額は増加しているのに、前期退職された従業員がいた場合は、前期より今期の総支給額が少ないという計算結果になり、控除が受けられません。
今期、新規雇用を行った場合は、前期は当然支給していませんので、今期支給した分が加算され、前期より今期の総支給額が多いという計算結果になり、控除を受けられます。
(3)計算方法と具体例について
従業員数5人、今期の法人税額が200万円の法人を例としてご説明いたします。
税額控除の上限額は法人税額の20%のため、今期は最大で40万円の税額控除が受けられます。
控除額の計算は前期と今期の総支給額の差額の15%です。
従業員5名の令和2年の基本給は月30万円、令和3年は月33万円とします。
前期総支給額:30万円×5人×12ヶ月=1,800万円
今期総支給額:33万円×5人×12ヶ月=1,980万円
増加額:1,980万円−1,800万円=180万円(増加)
増加割合:180万円÷1800万円=10%
1.5%以上増加しているため、増加額180万円の15%である27万円を全額控除することができます。
(4)既存の従業員を昇給せず、今期新規雇用をした場合
基本給を25万円として、1名新規雇用をしたとします。
新入社員の今期総支給額:25万円×12ヶ月=300万円
昇給しないため、新入社員の今期総支給額である300
万円が増加額となります。
増加額の15%である45万円が控除額として計算されますが、控除上限額を超えるため、この場合は40万円が控除可能額となります。
このように、昇給せず新規雇用をしただけでも控除上限額に届くことが可能です。
(5)従業員が退職し、今期新規雇用をした場合
既存の従業員のうち、1名の令和2年の基本給が50万円とし、前期末に退職したとします。
新規雇用の条件は(4)と同様とします。
前期総支給額:30万円×4人×12ヶ月+50万円×12ヶ月=2,040万円
今期支給額:33万円×4人×12ヶ月+300万円=1,884万円
増加額:1,884万円-2,040万円=-156万円
このように、昇給をしつつ新規雇用をしたとしても、退職した従業員の総支給額によっては、所得拡大促進税制が適用できない場合もございます。
(6)人材確保のチャンス到来
上記具体例にてご説明した通り、新規雇用をすることで所得拡大促進税制の適用要件に当てはまる可能性が高くなっております。
しかし退職による影響も受けるため、前期退職者がいる場合は総支給額をあらかじめ確認する必要がございます。
今回の税制改正による恩恵を受けるためには、如何に退職者を出さず、新規雇用を獲得するかがポイントとなります。
人材を確保しつつ、節税にもつながるため、この機にぜひご検討ください。
(T.C)
※内容につきましては、記載日現在の法令に基づき、一般的な条件設定のもとに、説明を簡略しております。実際の申告の際は、必ず、税理士又は税務署にご相談ください。